古くて新しい人文学
大阪大学大学院人文学研究科は、2022年4月に、文学研究科と言語文化研究科との統合によって誕生しました。文学研究科は、江戸時代の町人の学問所「懐徳堂」にルーツを持ち、1953年に法文学部に併設された大学院として発足したものです。また、言語文化研究科は、1974年に創設された言語文化部が1989年に解消・再編されて独立研究科となったのち、2007年の大阪外国語大学との統合を経て、拡充したものです。2つの研究科の統合により、人文学研究科は、240名近くの教員を擁する国立大学最大規模の人文学系大学院となりました。
人文学研究科は、豊中と箕面の2つのキャンパスにまたがり、人文学専攻、言語文化学専攻、外国学専攻、芸術学専攻、日本学専攻の5つの専攻をもちます。また、統合のスケールメリットを生かして、専攻の垣根を超えた授業や交流企画を担う、人文学林という組織を設けています。この二重の構造によって、専門分野の研究を深めつつ、分野横断的な視点を養う体制が整えられています。
近年、科学技術は目覚ましい発展を遂げ、わたしたちの生活を便利にしてきました。しかし、そうした便利さが、必ずしもわたしたちが実感する真の豊かさにつながっていないこともたしかです。「もの」や情報が氾濫する一方で、貧富の差がますます拡大し、紛争がエスカレートしていく現代において、世界や自己とどのように向きあい、他者とどのように共生していくか、といった課題を通して「ひと」の問題に取り組んできた人文学は、まさにその真価を社会から問われているといえます。
およそ知の営みが「ひと」の枠組みに規定されている以上、人文学が古びてしまうことはなく、それは古くて新しい学問分野であるといえるでしょう。人文学研究科は、他の部局や専門分野との連携による学際的領域において、また現代社会や地域のさまざまな課題への取り組みにおいて、人文学ならではの貢献ができるよう、日々研鑽を続けています。
2025年4月1日
大阪大学大学院人文学研究科長 山本佳樹